イメチェン小説

イメージチェンジの意味:小説

予備校の授業が始まるまでもう少し時間がありそうだったので、自習室の扉を開けたら、杏が既に来ていた。

いよいよ冬に差し掛かろうという季節で、まだ学校が終わったばかりだけど外は日が傾きかけているし、寒さがどことなく体に染み込んでくる感じがする。
高3の冬、もうすぐ始まってしまう入試に向けて緊張感に拍車を掛けてくるようだ。

杏とはいつも一緒に勉強している。
通っている高校のレベルが似通っているから、仲良くなっていつも一緒に固まっている友達の一人なのだ。
彼女とは殊更自習室では今まで一緒に勉強することが多かった。

横に座ったら、今日は彼女がいつもと違うことに気付いた。

「あれっ、髪染めたの??」

彼女は黒髪なのだが、今日はそこに前髪の一部分だけ虹色のカラーが掛かっている。
とても綺麗で、彼女には似合っている。

「そう。うちはこういうのは何も言わないし」

杏は特に機嫌がよくなるでもなくいつも通り参考書だとか問題集だとかに目を通しながら淡々と喋っていた。

彼女はお嬢様だ。
「こういうのは」というフレーズの中には、そこら辺の事情から来る難しさが色々詰まっていた。
お嬢様育ちの人ほどこういうことは家から応援されつつも、一方で頑張るべき人生のノルマというのが恐ろしいほど伸し掛かってきているものだ。

親から愛されて育っていれば、不自由を身にまとっている感じはしないはずで、彼女もそのために可愛らしいものを身に着けて、オシャレに生きている。
こういうイメージチェンジもそのうちだ。
そういうことをしながらかつ、家の納得するレベルに敵う人生の成功のための出来事をいくつも手に入れていかなければならない。
管理されながらの見かけの自由というものであり、こういった事情は昔からずっと一緒なのではないかと思う。

僕の家にも色々ある。
ちなみに僕のところは買い食いは自由に出来る。
他は色々面倒くさい。
親は自分たちの思う自由について語っているときはまるで詩人か何かと思うようなのに、一方でそこは許せないという事柄に話が差し掛かった時には、一変して軍隊式の体育会系のような理屈のない世界へ人を投入したりするのだ。

そんなんで見た目のことは諸事情あって自分は今は単に黒髪のままだ。

「壮ちゃんはもうすぐ入試だけど髪染めないの」
「うん。僕の場合は大学行ってから何か変えようと思ってる」

特に何も話したわけじゃないし、はっきりまだ決まったわけじゃないけど、多分僕らは別々の大学や学部に行くんだろうなと思う。
住む県が違う可能性も大きそうだ。

噛み合わない色々な事。
大学へ行ったら、好きにすると思う。

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