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私の色: イメチェン小説

「はじめまして。担当のミユキです。当店ではサービスでカラーコディネート診断をしているので、そちらを参考にマイちゃんに似合う髪形やヘアカラーの色を提案させていただきますね。」
明るい店内、シャンプーの匂い、鏡に映る私に向かって笑顔で語りかける女性。そう、ここはヘアサロン。はじめて来る場所に私は緊張していた。
正直ヘアサロンは苦手だ。大学生になってまで言うことではないかもしれないが、自分の顔をまじまじ見るのは恥ずかしいし、地味でぱっとしない私がヘアスタイルについて注文したら笑われるんじゃないかって思ってしまう。
でも本当は人一倍見た目を気にしている。最近はさらさらストレートヘアが人気だからストレートアイロンでまっすぐにしてるし、流行りの色のリップだって使ってる。
なのにどうしてぱっとしないんだろう。

授業が終わって散り散りに人が出ていく教室。前を歩くおしゃれ系女子たちがヘアサロンの話をしているのを聞いた。
「ねえねえ、最近髪切ったよね?なんかイメージ変わったしすごいいいよ!」
「ありがと~。私もめっちゃお気に入りなんだよね。」
「私も髪切りたいなー。どこ行ってきたの?紹介してよ~。」
「○○ってサロン、あそこ超おすすめ。自分に似合う髪形提案してくれるし、パーソナルカラー診断もしてもらえたよ。」
「え、パーソナルカラーってなに?」
「なんか自分を引き立てる色を見つけてくれるの。その色を使うと顔色がよく見えたりしていいんだって。ヘアカラーとかメイクを選ぶ参考になるよ。」
「へー!いいじゃん、そんなサービスしてるんだ!」
「あと色のタイプでその人に似合う髪形やイメージも違うから、ヘアスタイルも提案してくれたよ。だから私もそんなに切るつもりなかったんだけどおまかせしたら結構いい感じになってみんなに新しい髪形似合ってるじゃんって言われるんだよね!」
「確かに!前の髪型より似合ってるよ!」
(へー・・そうなんだ・・。)
聞き耳を立てながら心の中で呟いた。
(私も変わるかな・・。変わりたい、な。)
変わりたい。いいねって言ってほしい。もっと自分に自信を持ちたい。
教科書を持つ手にギュッと力が入った。廊下の窓から午後の光が差し込んで、前を歩くおしゃれなその子の髪をキラキラ反射させた。

週末、私は噂のサロンに来ていた。
きょろきょろと店内を見渡しながら緊張して待合で待っていると、お待たせしましたと明るい声がした。ミユキさんはとても個性的な髪色をしていた。けれどそれがすごく似合っていてさすが美容師さんだなあ、と感心していた。

「ちなみにマイさんはこの中だとどの色が好き?」
突然聞かれてしどろもどろになった。
いつのまにか私の前には2枚のパネルが置いてある。それぞれ金のフレーム、銀のフレームに囲まれていて、中には2組ずつ分けた色のグループが書いてある。
「え、と、そうですね・・。黒とピンク、です。」
「なるほど、じゃあこの銀のフレームのほうが好みかな?」
ミユキさんが指さした方の色は確かに私がよく選ぶ色だった。ブラック、ペールピンク、ブルーグレー・・。
「そうですね。」
「わかりました。では今からパーソナル診断をしていきます。この色の布をお顔の近くに当てていきます。顔色がよく見えたり、お肌がきれいに見えるものは何色なのか探っていきましょう。ではまずこの2色。ピンクとイエローです。まずはピンク・・この時の感じをよく覚えて・・次にイエロー。どうですか?」
「・・イエローの方がいい感じ?」
自信なさげに答えるとミユキさんは大きく頷いた。
「そうですね。イエローを当てた時の方が顔色が明るく見えましたね。」
「はい、全然違いました。ピンクの時は肌のアラが目立って見えました。」
「色は光を受けて反射し、お顔に当たります。それぞれの肌色によって色の映え方が違うんです。では次に、ブラックとブラウン・・。」
それからは数種類の色の布を使い、交互に当てを繰り返し、変化を見ていった。確かに全然違う!今まで好きで選んでいた色がことごとく似合わないことに気がついた。
「そうですね、マイさんはイエローやゴールド系が似合う秋色タイプですね。ブラウン系やオレンジ系のものと相性がいいですよ。髪色を少し明るいブラウン系、もしくはオレンジやカーキ系にするとぐっと魅力的になりそうですね。あとこのタイプの方は直線的なヘアスタイルよりゆるいパーマスタイルの方がお似合いになりますよ。」
(そうだったんだ・・!確かに今までは自分に似合うものというようり、流行りのものを使えばイマドキの感じになれると思っていた。だから人気女優の黒髪ストレートヘアが流行っているから取り入れたし、青みピンクリップが大ヒットしていると知ったら真似して使ったのに。これじゃ全然真逆じゃん!)
「今日はヘアカットだけのご予定でしたが、どうされますか?」
ミユキさんがにっこり微笑みながら尋ねた。

翌日。
いつもと変わらない一日なのにこんなにドキドキしている。心なしか学内を歩く足取りも颯爽と軽い。
昨日、ミユキさんに魔法をかけてもらった。黒髪でストレートだった髪はバッサリとボブまで切った。髪色は明るいベージュブラウンにし、毛先にだけくせ毛風のパーマをかけて柔らかい印象になった。今までの私と違いすぎてどうなるのかちょっと不安だったけど、仕上がった時、鏡の中の自分の表情がぱあっと明るくなったのを感じた。

教室に入り決まった席に着く。私にはお気に入りの席があるのだ。窓側の木々の緑がきれいに見えるこの席は私の特等席だ。
いつも二つ席を空けて座る男子がこちらを見ていることに気がついた。不思議に思い軽く会釈をすると男子はへえ、とつぶやいた。
「髪切ったの?」
まさか話しかけてくるとは思わなかった。今まで席二つ分の距離を保ったまま一度も話したことはない。
「あ、うん、昨日・・。」
驚きながら答えると、男子はふわっと笑って
「いい感じになったね。」
と言った。
太陽の光が今日は少し暑い。

・ペンネーム
うぃずみー

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