S社から帰り、軽い睡眠のつもりが、僕は寝過ぎてしまい、結局事務所のソファーで朝まで寝てしまっていた。
翌日、眼を覚ますと、まだハルカ君の姿は無かった。
いつもなら、決まってこの時間は朝食の支度をしているはずなのだが、この感じだと昨日から帰っていないようだった。
ハルカ君の事は気にはなっていたが、今日は斉藤CEOとの決戦の日なので、頭は決戦の事、妹の事を考えていた。
なぜ妹が殺されたのか。殺されなければいけなかったのか?犯人と思われる斉藤CEOに対して冷静に話ができるのか?私は過ちを犯してしまわないか?
頭がぐちゃぐちゃになりながらも、いつもハルカ君がやってくれていた紅茶を自分で淹れて、決戦前に一呼吸していた。
一服して少し落ち着いてきたので、僕は洋服を着替えて、身支度をして事務所を後にした。
昨日までは監視の目があったみたいだったが、今日は誰も僕を尾行していないようだった。
交通機関を利用するのは若干の不安があったため、僕は須藤から聞かされていた斉藤CEOの住所までタクシーを飛ばした。
大きな黒く重たそうな門。その先の広大な敷地に広がる、高級な芝生は綺麗に揃えられており、定期的にメンテナンスされているのがよくわかる。
巨大な屋敷には扉が一つあり、窓は複数あるが、どれもカーテンが閉められており、何かを警戒している様子が伺える。
入り口のチャイムを鳴らすと、返答はなく、だがガチャと大きな門が開いた。
おそらく入れ。という合図だろう。
僕は恐る恐る屋敷内に入って行った。
「ご主人様より伺っております。時坂様ですね?」
迎えてくれたのは、黒髪ツインテールでメイド服を着て、白いカチューシャをしている若い綺麗な女性だった。
「はい」
と返事をすると、大きな部屋へ通された。
部屋には大きな椅子が2つ向かい合うように少し離れた距離で用意されており、それ以外は何も無かった。
そこにはメイドが10人くらいいて、皆同じ服装で手を前に重ね合わせながら綺麗な姿勢で立っていた。
この女性達はエスが所有している女性ってわけか?いつでも好きな髪型に断髪出来る。といった感じだろうな。
「こちらへお座りになってお待ちください」
そう言われると大きな椅子に案内されてそこへ座った。
少し待つと、僕の位置から見える扉が開き、一人の男性と女性がこちらへ近づいてきて、僕と反対側の椅子に座った。
彼はスラリとした長身で、切れ長の目が特徴的な中年男性。彼の全体的な印象は、落ち着いていて知的、どこかミステリアスで人を引きつけるものがあった。
女性の方は、白いブラウスに黒いスカート。髪は非常に長くて、床につかないギリギリの長さで綺麗に切り揃えられている。
透明のメガネをかけており、クイッと上に上げながら近づいてきた。
こちらの女性はおそらくCEOの秘書?だろう。
「ようこそ、我が屋敷へ。
私がエス創設者でS社CEOの斉藤 知影(さいとう ちえい)だ。
要件はわかっている。
妹さんの事だろう?」
「あぁ、そうだ。
単刀直入に聞く。
お前が妹を殺したのか?」