いつも私は人の視線ばかりを気にして生きている。
同性に疎まれれば自分の安住の地を失うような気がするし、異性に好かれなければ女でなくなる気もする。
そんな自分に嫌気をさすが、何も変えられずただただ無情にも時は過ぎていく。
30歳を目前にして、ふと今までの自分を思い返してみた。
無難なファッションに身を包み、ヘアスタイルも無難そのもの。
モテを意識したゆるふわ系のヘアスタイルにしてモテてみたいのに出来ないし、かといって思い切り男ウケそっちのけで女ウケを狙っただけのヘアスタイルにもしたくない。
どちらにも好まれる、いやどちらにも問題視されない程度の髪型を選び続けてきた。
本当は、可愛くモテを意識したカラーとパーマもしてみたい。
時々は思い切りボーイッシュにショートヘアーにしてみるのも楽しいかもしれない。
だけど私はどちらも出来ない。
モテを意識すれば同性から疎まれるだろうし、ボーイッシュにしてしまうと異性から女としてみられない。
どちらが似合うとか関係なしに、そのときの自分の気持ちで思い思いのヘアスタイルを楽しみたいけど、そんな思いが頭の中をいっぱいにしてしまい、結局は軽く動きを出す程度のパーマに奇抜過ぎないカラー、ボブからセミロング、もしくは長すぎない程度のロングで収まりがち。
これはファッションでも同じだ。
いつも無難そのものだ。
これでは正直、いつまでたってもその他大勢の枠組みから脱却は出来ない。
無難を歩めば大きな失敗はないけど、その他大勢でしかない。
それなりに恋人も出来たし、いろいろと経験も重ねてきた。
だけど、無難を貫いたせいなのか平凡で何だ変わりのない退屈な生活を過ごしてきたにすぎない。
恋人につまらない女だと言われたこともある。
何でも平均的なものを好み、個性の欠片もない。
彼はそんな私をみて落ち着くと言っていたのに、面白みがないと言って浮気をした。
浮気相手は、私とはまるで違う。
女の子だ。
同性に疎まれようがやっかみを言われようがお構い無し。
可愛いものたちに身を包み、頭の先から足の先までモテる女だ。
甘ったるい香りに包まれ、うるっとした少し垂れ目な目元、ふんわりとしたシフォンのスカートに高過ぎない丸みのあるヒール。
ヘアスタイルは、明るすぎない柔らかいブラウンカラーに触りたくなるような緩いパーマ。
女ウケする可愛いとは違う、明らかに計算しつくされた男ウケ抜群のファッションにヘアスタイルだ。
私も一度はしてみたいと思ったが、同性に嫌われては自分の居場所がなくなると恐れ、今まで一度もしことがない可愛いを貫き通した姿だ。
彼女なら合コンで完璧なまでに全員の男性の視線を集めるだろうと思った。
きっと漫画のように目がハートになるのだろうと。
私は中途半端だ。
流行りのヘアスタイルもファッションも女ウケが良くても男ウケがいまいちなこともある。
そうなると流行りの格好はしない。
逆もしかり。
大量生産された人形のようだ。
ほど良く男ウケを狙いつつ、女に疎まれないようにアンテナ張って。
個性はどこにいったと言わんばかりに、よくいるありきたりな見た目を好む。
私は自分が何者なのか分からなくなる。
何がしたいのか、これからどうなりたいのかが分からない。
いっそ、誰の目も気にせずモテるとか女からの評価とか何もかも気にせず、思うままに生きてみたい。
そう思う自分に気がついたとき、ふと目の前を見ると新しく出来たばかりのヘアサロンがあった。
普段から行き慣れたヘアサロンがあるにも関わらず、無心に歩いて辿り着いた先にあるヘアサロンへと足が勝手に進んだ。
まだオープンしたてで真新しいその空間と、店主の柔らかい印象に飲み込まれ、ふいに今の自分から脱却したいという言葉が口から息が漏れるように出た。
店主は、にこりと笑いながら奥へと通してくれた。
あなたを見て直感で思ったイメージのヘアスタイルをしてみても良いかと訊ねられた。
首を縦にふり、どうなるのかと不安になりながらもワクワク感から目を瞑った。
はい完成という言葉が聞こえ、恐る恐る目を開けるとそこには自分ではない新しい自分がいた。
ベリーショートだ。
カラーはグリーン系のアッシュ。
驚きが隠し切れない。
男ウケはもちろん皆無だろう。
かなりボーイッシュだ。そして、目立つ。
同性はどう反応するだろうか
個性的と思われたいがためのヘアスタイルだとかって言うのかな。
女ウケと言えば、インナーカラーとか、ちょっとクールなボブだと思う。
これは、ちょっとクールとかではない。相当クールだ。
だけど、この相当クールなヘアスタイルが何とも自分に似合っているではないか。
メイクやファッション次第でロックな感じにも、カジュアルにも、そして可愛いらしい雰囲気だって作れそうな気もする。
新しい自分に出会えた気がした。
誰の目も気にしない。堂々とした自分。
自然と自信も湧いてくる。
流行りも女ウケも男ウケも何もかも気にしない、自分らしい自分。
このまま浮き足だって買い物へ行こうと思う。
今までの自分とはさよなら。
平凡で平均的な味のない女。
無難が一番、自分に似合うとか自分の好みとかは二の次。
そんな自分よバイバイ。
あお