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あなたのその一言が:小説 #イメチェン小説

学校の放課後はいつも賑やかだ。
部活に向かう人、委員会に向かう人、帰宅する人、居残りをする人。
 私のカテゴリーは居残りをする人。
教卓の向こう側には呆れたようにため息をつく先生。
「お前はなんでこうも俺の科目だけ赤点を取るんだ。俺をいじめてんのか?」
先生は手で悲惨な小テストをピラピラとさせている。
もちろん名前は私の物だ。
「先生をからかうの楽しいですよ。」
机に座ったまま本音を呟けば再び深いため息をつく先生は「いいから早く再テストしろ」と半ば投げやりになっている。
言われるがままテストに目を向けて問題を解き始める。
 別に難しいことはない。
一度目にした問題なのだ。
問題さえ分かっていれば答えも事前に調べることはできる。
 シャーペンを走らせながらチラッと先生を見れば持ち込みの仕事をしていた。
「先生ー。」
「なんだ、分からんとこでもあるのか?」
「いや、再テストだから余裕なんですけど。先生って彼女いないの?」
「余裕って…。最初からその余裕だしてくれよ。お前ら可愛い生徒のおかげで彼女を作る時間もねぇよ」
ムスッとしながら持ち込みの仕事を進めていく先生。
可愛い生徒の部分に嫌みがたっぷりと込められていることに気づいた私だが悪びれもしない。
「じゃあ先生のお嫁さんポジション開けといてね。私立候補するから」
ジッと先生を見ながらそう口にすれば、先生は「は?」と間抜けな声をあげた。
「…タイプじゃない」
しかめっ面をした先生はそう一言告げる。
「じゃあどんな女性がタイプ?」
先生の言葉に落ち込むことなく、問いただせば先生は呆れたように再テストを促す。
「先生の手を煩わせない女性」
先生の言葉にむぅと頬を軽く膨らませる。
明らかに牽制されたがここで食い下がれば女が廃る。
「外見は?」
中々食い下がらない私にため息をつきつつ先生は仕事をしながら答えた。
「ベリーショートが似合う女性。お前とは正反対だな」
私は背まで伸びてポニーテールをしている髪に触れる。
「…そうですね。先生って卑怯だね。」
不機嫌そうに言ってのける私に先生は笑いをこらえてるようだ。
 右手でペンを走らせ、左手で髪をいじくりながら再テストの問題を全て解いた。
 先生にテストを渡せばその場で採点を始める。
「…最初からこのくらいのやる気を見せてくれ」
ペラリと返されたテストは90点台だった。
イージーミスがあったものの上出来だ。
「手のかかる子程可愛いっていうでしょ?」
軽く首を傾げて問えば先生は持ち込んでいたプリントの束を丸めパコンと頭をはたいた。

 次の日、学校に登校し教室へ入ると室内がざわついた。
「どうしたの?失恋でもした?」
席が前の女の子が驚いたように私に問いかけてくる。
そう、私は補習が終わったその足で美容院に出向き、伸ばしていた髪をばっさりとおさらばしたのだ。
「失恋はしてないよ」
席の周りには女子だけでなく男子も取り囲み質問責めとなった。
 どうして髪をばっさり切ったのかと理由を聞かれる度に「なんとなく」とか「気分」と答えた。
この問題の答えは二人しか知らないのだ。
他の誰かと共有はしたくない。
 予鈴が鳴り響く。
少しずつ興味を失った人たちが席を離れていく。
私は内心ドキドキしていた。
先生は一体どんな反応をするだろうと。
次に教室に入ってくるのは担任である先生なのだ。
今か今かと心が跳ねる。
待っている時間がこんなにも待ち遠しい。
ドクドクと心臓が時計の針を刻むように鼓動しているのがやけに耳につく。
 そしてガラッと教室の扉が開かれた。
さて、先生は私を見て何を思うだろうか。
先生の反応を期待しながらベリーショートにした髪を左手で触れた。

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