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知らない私

数年ぶりに伸ばしていた髪に少し明るめのカラーリングをしてパーマをかけた。

ゆるく巻かれたふわふわのスタイルに私自身、とても気に入っていた。

イメチェンにもなったし、気分転換にもなり、心が軽くなった気がしたから。

それから少したって、同僚のA子が私のことを「マネされた」と言っているという話が耳に入った。

「マネ?」私にとっては目からウロコだった。

A子は、どちらかというと派手でギャル系。大人しい私とは正反対のタイプで、仲が良かったわけではないが、特に悪い関係でもなかった。

何がマネなんだろう?「マネされた」と言われても、さっぱり分からない。

教えてくれたB子に何のことか聞いてみると、私がイメチェンした髪型が自分のマネだと言っているらしかった。

「パーマかけて髪色を明るくしたから、自分のマネだって言ってるんだよ」

「え?そんなことで?」

「アホらしいよねー」

B子と同じく私も「アホらしい」と思った。

パーマといっても、髪の長さも巻き方だって違っていた。それをマネだなんて。

そもそも、同じような髪型をしている人なんてそこらへんに大勢いるじゃないか。

ゆるふわパーマが流行れば、皆こぞってゆるふわパーマになるし、アッシュカラーが流行れば町中にアッシュカラーがあふれる。

それをいちいち「マネ」だなんて言っていたらキリがない。

面倒臭いことこの上ないが、仕事に差し支えるなら穏便に済ませたいと私は思った。

そ知らぬ顔をして今まで通りに接すればいい。

だがA子どうも違ったようで、何かしら私に突っかかってくるようになった。

「どうしたの~急にイメチェンして~」

「久しぶりにパーマかけてみたくて。変かな?」

「変じゃないけど、前のほうが良かったんじゃないー?」

前のほうが良かった、なんて明らかに少しの敵意を含んでいる。

イメチェンして軽くなっていた心がすっかり重くなっていた。

ただ、気分を変えたくて髪型を変えただけなのに、どうしてこんなことになるんだろう・・・。

「そうかな?気に入ってるんだけど」

「新しい彼氏でもできた?」

「違うよー、本当にただの気分転換。今までの髪型に飽きちゃって」

「そうなんだ。急にイメチェンしたから彼氏と別れたのかと思っちゃった!」

こんなやり取りをしているうちに気付いた。

元からA子は私のことを良く思っていなかったのだろう。とにかく気に入らないのだ。

考えてみれば、A子は特別扱いされないと気が済まないタイプだ。

下世話な言い方をすれば、自分以外が男性社員にちやほやされるのは気に入らない。実際にそういう態度を隠そうとしないことも何度かあった。

私が特別、男性社員にちやほやされているわけではないのだけれど、イメチェンしたことで「変わったね」と声をかけられることが増えた。

それが彼女にとっては気に入らなかったのだろう。

ああ、そうか。

マネだというのは後付で、A子は気に入らないんだ私が・・・。

そう思ったら、なんだかスッキリした。

私が何かしてしまったわけでもない、そもそも何かをしてしまうほど親しくもしていない。

そんな相手に気を使う必要なんてないじゃないか。

すっかり重くなっていた心が、すうっと軽くなった。

私は好きな髪形をしただけだ。

美容師さんにイメージを伝えた時だって、微塵もA子のことなんて頭になかった。

こうなりたいと思う髪形に変えただけ。

たとえそれが誰かと似通っていたとしても、その人の持つ雰囲気やそれぞれ顔付が違うのだから、「同じ」にはならない。

それをマネだなんて、なんてつまらない思考回路なんだろう。

そう思ってからは、A子に突っかかるようなことを言われてもまったく気にならなくなった。

ある日、A子がこう言ってきた。

「ねえ、髪型変える予定ないの?」

「気に入ってるから、しばらく変える予定はないよ。どうして?」

「言いにくいんだけどさ、なんか髪型私とかぶってないかなーって」

またか、と思いながらも私は答える。

「そう?私は気にならないけど。かぶってる気もしないし」

「パーマも同じだし、カラーも明るいし、かぶってるでしょー」

「パーマなら営業のCさんも検査のDさんもかけてるし、技術のEさんだって明るいカラーリングしてるじゃない。それでかぶってるっていうなら世の中の女子みんなかぶってるよ」

と私が言うと、A子は黙ってしまった。

するとB子がやってきて、なんだか変わったねと笑った。

「変わった?私が?」

「うん。前はあんなにハッキリものを言うほうじゃなかったでしょう?よく言えば大人しいけど、悪く言えばはっきりしない」

「はっきりしない・・・」

ショックな顔をした私にB子は慌てたように付け足した。

「ああ、悪口のつもりじゃないよ。もっと言うべきときはハッキリ言えば良いのにって思うこともあったからさ」

B子にそう言われてハッとした。

確かにうまくやるためと思って、あたらず触らずだった。

現にA子のことも、穏便に済ませたいと考えていた。

「他の人もさ、言ってるよ。なんか最近ハキハキしてるって」

自分を変えたいと思ってイメチェンをしたわけではないけれど、結果として私を変えてくれた。

髪型を変えたことで知らない私と出会えた気がした。

 

ちびたま

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