「私、髪の毛切ろうかな」
それは、昼休みの教室でクラスメイトがワイワイ話している中で何気なく発せられた一言だった。
彼女の名前は黒崎 優子
いわゆるクラスのマドンナ。
細い体にスラーっと伸びた長い黒髪。
目がくりっとしていて、左腕に黒いゴムをしいてる。
首筋からは汗が少し垂れている。
「冗談だよ!」
「なぁ〜んだ、優子、わたしぁ〜ビックリしたよ〜!」
黒髪ショートの彼女は相川芽衣
バスケ部のキャプテンで、元気で活発なタイプ。
誰とでも仲良しな彼女だが、特に優子とは仲が良く、いつも二人でいるイメージ。
彼女も昔は優子と似たタイプで黒髪ロングヘアで大人しい子だったらしいんだけど、今ではその面影はなく、いわゆるクラスの人気者だ。
そんな彼女達は、どうやらイメチェンの相談をしているらしい。
「でも、案外、優子はショートカット似合うかもね?」
「そう?かなぁ?でも、怖い…。
今まで16年間ずーっとロングヘアだったから…
それに…」
チラッとこちらに視線がきた。
あれ?なんだろう。俺の事見てる?んなわけ無いか…。
黒崎さんとは、ほとんど話した事がなく、こちらを気に留めてくれるはずはないと、ため息をつく。
「お!何こっち見てんだよぉ?優子に見惚れてたか?」
「んなわけ無いだろ!バスケの事考えてたの。」
そう、俺は芽衣と同じく男子バスケ部の一員だ。
だから、芽衣とは、そこそこ話すし、仲は良い。
…。
黒崎さんが浮かない顔をしている。
芽衣がこちらに近づいてきて、耳をかせと言わんばかりの仕草で話し始めた。
「おい、せっかく話を振ってやったのに、優子と話せよー!」
「な、お前!聞こえるって!」
ニヤニヤしながら芽衣は話を続けた。
「いつまでもこの距離感じゃ、優子を彼女にできないぞっ!」
「お、おい、やめろって…
俺なんかが黒崎さんととなんて…
片思いでいいんだよ。」
優子はムスッとした顔をして、俺の頬をつねった。
「そんなんだからいつまで経ってもお前達は、距離は詰まらないんだよ〜!
お前も聞いただろ!
あの、あの優子がだ…髪の毛をショートにしようか悩んでるんだよ!
何かあるだろ!何か!
だって芽衣はお前の為に…。
っといけねぇ、まぁせいぜい頑張って話かけるこったぁ〜」
芽衣は再びニヤニヤしながら去っていく。
「ちょっと芽衣…何話してたの?私の事とか…言ってないよねぇ?」
「大丈夫だぁ〜って、ノープロブレムだよ!」
優子がこちらも見て、軽く会釈した。
すかさず俺も頭を少し下げて挨拶した。
学校は終わり、優子は帰宅して、シャワーを浴びていた。
「はぁ〜…また話せなかったなぁ…。
長い髪が好きって噂で聞いてたけど…
芽衣とばかり話して…
やっぱり…ショートカットの子が好で芽衣と仲良くしてるのかなぁ…
私もショートカットになれば…話しかけてくれるのかなぁ〜?
うぅ〜ん、ぴよきち、どう思う〜?」
お風呂場に置いてある、あひるの人形に対して優子は話しかけている。
「何くよくよしてるんだよ〜優子、迷ったら進めだよ!ショートカットにしちゃいなよぉ〜」
ぴよきち役で優子が自身に話しかけている。
「ぴよきちもそう思う〜?
でもぉ〜、この長い髪は…。」
3年前…。
優子は、中学校で一時的にいじめグループの男子により、いじめの標的になっていた。
ことの発端は、いじめグループのリーダーに告白されたのを断った事から始まった。
今日もまた、教科書を取られ、放課後のいつも空いている教室に呼び出されて、イジメをうけていた。
「やーいやーい!お前のこの長い髪、うっとおしいんだよぉ〜!授業中もなびいていい匂いするし…。
っと、とにかく!長い髪が嫌いなんだよ!」
いじめのリーダーは、ハサミを取り出し、優子の髪の毛を鷲掴みにした。
「や…やめて…。」
聞く耳を持たず、いじめのリーダーは声を張り上げた。
「あ…俺が切ってやるよ!短くしてやるよ!そうすれば、お前なんて…どうせブサイクなんだからさ!」
いじめのリーダーが優子の髪にハサミをあてた。
「やめて…怖い…」
「やめろよ!!!」
いじめのリーダーはビクッとして、ハサミが閉じて、優子の髪の毛が少し切られ、地面に落ちた。
それを見たいじめのリーダーは焦って話し始めた。
「あ…お、おれは悪く無いぞ、おれは悪くない…い…いくぞ!お前ら!」
いじめグループは去っていった。
「黒崎さん、大丈夫だった?
あの…おれ、黒崎さんの長い髪…その…好きだよ!」
顔を赤らめながら言った。
「えっ。」
「あ…いや、その…じゃぁーな!」
…現代。
「もう、ロングヘアー、好きじゃなくなっちゃったのかなー?…」
湯船に顔を埋めてぶくぶくとさせながらぴよきちに話しかけている。
「よし!決めた…やっぱり明日切りに行こう!」
そして次の日、優子は行きつけの美容室に行った。
…続く。