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これから: イメチェン小説

こんなはずじゃなかったんだ。
「横田さん、まだ?さっきの資料も間違いだらけだったわよ。ねぇちゃんと集中してるの?」「すみません!今すぐ!!」
そこそこ良い大学を出て、誰もが知っている企業に就職。…..自分はもっとやれると思っていた。
バリバリ働いて、こう、もっとキラキラした、充実した生活を送っているつもりだっと。
「大丈夫?」同期に声を掛けられて、はっとなった。「うん、大丈夫!」
自分でも声が震えているのが分かる。
大丈夫と人が言う時は全然大丈夫じゃない時。と、どこかの誰かが言っていたけどその通りだ。
全然、大丈夫じゃない。
幸い明日は休みだ。頑張れ自分。頑張れ、頑張れ頑張れ頑張れ。

やっとの事で仕事を終え、帰路に就いた。
自分がしんどい時疲れた時にどうしてあげたらいいか私が一番私のことを分かっているつもりだ。
明日は美容室に行こう。伸びきった髪を見てバッサリいこうかなと思いながらスマホで予約した。
明日はそれで良いとして今日だ。こういう時は料理。そうだ味噌汁を作ろう。後は和食。
冷蔵庫を開けてさっそく取り掛かる。食材をトントンと切る音が落ち着く。出来上がるちょっと前にお風呂にお湯を入れた。
今日はLUSHの入浴剤を入れてゆっくり入ろうと考えながら、ちょっと楽しくなってきた。

今日のメニューはぶりの照り焼き、ひじき、味噌汁、ご飯。
美味しいなぁ。最高!と顔をほころばせながらペロッと平らげ、テレビでも見ようと思っていると電話がなった。
「あ、もしもし?」「はるか~ちょっと聞いてよ~~今いける?」高校時代からの友人の杏奈からだ。
彼女はとにかく明るい。明るいし、とても優しい。しかも自分の弱さを人に見せれる素敵な女性。
「大丈夫!!私も聞いて欲しい事があってさぁ。今日は長電話コースだね。」
笑い合いながら同じ大丈夫でもニュアンスが全く違うなぁと思いながら、
「どうした?何かあった?」と聞くと、
「彼氏が誕生日の日に連絡してくれなかった!!どう思う!?」
「うわ~最悪。私だったらブチ切れ。」
「だよね!!もう腹立ってさぁ。何かねぇ。会う時に言うつもりだったとか、プレゼント用意してるとか、言い訳がましく聞こえちゃって。」
「あ~。誕生日はさ、彼氏に一番に祝ってほしい女心を分かってないよね。」
「そうなの、本当に!!もうさ~仕事も全然ダメでさ。」
「私も!!今日怒られまくってめちゃくちゃへこんで帰ってきた。」
「うそ~帰り道にでも電話くれたらよかったのに!!」
「もうありがとう~。尋常じゃない量の仕事振ってさ、遅いって言うんだよ、ひどくない!?」
「最低!うちのはるかをそんな扱いするとは、もう許さん!」
あったかいなぁ。味噌汁が体にしみるように彼女の優しさが身に染みる。
お互いの仕事の話、プライベートな話を結局一時間以上して、今度また会って話そうねと約束して電話を切った。
時計に目をやると、もう22時。お風呂はちょっと冷めちゃっていたけど彼女のおかげで心はあったまっていた。

次の日少し遅めの10時くらいに起きて、美容院に行く準備をした。
軽くオシャレをしていつもの美容院に向かう。
「こんにちは、今日はどうする?」
「肩くらいまで切ってください。」
「前髪は?」
「ん~そのままで。」
「はーい。」
男ウケとか女ウケとか、あんまりよくわからない。
そういうのを意識しなくても、自分の好きな髪形が一番じゃんと思ってしまう。
「最近どう?」
「ん~仕事が大変、かなぁ。」
「まぁどんな仕事でも大変な事はあるよね、仕事してるだけで偉い!」
「うわぁなんていい人~。」
「でしょ!」
昨日から人と話して笑いながら、やっぱり声を出して笑うって大事だなと思った。
鏡にうつった顔が昨日とは別人だ。
「昔は髪をバッサリ切ったら失恋!?とか言ってたけど古いよね。あれいまだに言ってる人見たらちょっと引くわ。」
「わかる!自分の為に、自分が良くなりたくてとか、リセットしたくてとかだよね。」
「そうそう、何でも男に結び付けるのはどうなのって。」
「本当だよね~めちゃくちゃわかるわ。」
最近のコスメの話、ドラマの話をしながら、気づいたらずっと笑っていた。
「よし、後ろはこんな感じ。」
鏡で後ろを見ながら丁寧に髪を触った。
「サラサラ、いい感じ!ありがとうございます!」
「いえいえ、また来てね~!はるかちゃんと話すの私好きなの。」
「こちらこそ、いつもありがとうございます。」
「何その他人行儀な!」
冗談を言いながら、人の温かさに触れて心が随分軽くなった。
帰り道にちょっとだけ飲んで帰ろうかなと思っていたけど、もう十分だ。
久しぶりに一週間分くらいの作り置きを作ろう。
生活が乱れると心も乱れる。
まずは頑張りすぎない程度に生活を整えよう。
私は、もう自分がそんなに器用じゃない事も、天才じゃない事も、知っている。
でもだからと言って諦める訳にはいかない。好きな仕事を任されるくらいにはなりたい。
これから、まだまだこれから。自分の弱さを認めて初めてスタートラインに立ったのだ。
男子、三日会わざれば括目して見よ。
明日からの私は今日までとは別人なのだ。

・ペンネーム
カメレオン

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