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斜め上に戻らないためのイメチェン

画面越しに彼女がべそをかいている。
またあんまり大学の周りの友達とうまくいかなかったらしい。
もう遅いので寝る準備の格好をして、そのネグリジェみたいなものが白いので、真っ黒く綺麗に切りそろえられた長い髪のいろがとても際立っている。
彼女はメイクを落とすと眉が非常にうすい。
もともとそのようにしかならないそうだ。

男から見たらいかにもなラブリーなものが好きで、すっかりそのようなもので身の回りを固めている。
社会人で別のところにいざるをえない自分とは、こんな感じでネット通話ぐらいしか普段話せないので、そういう機会のときくらいおシャレにしたいからと、最近は画面に映るそういうものの数がどんどん増えてきた。
彼女はそういう演出みたいなことが好きなタイプなのだ。

「元気出せば」と優しく声を掛けてみたのだが、一向に愚図るのが直らない。
周りとうまくやれなくて、それを嘆きたい割に、自分のこだわりの中に固く閉じこもるものだから、確かに難のある子に見える。
女子の中ではやっぱり難しいかもしれない。
でもこういうのが女だけで固まっているようなタイプの女子にも思える。
そこへ行ったらこんなのばっかなんじゃないっていうような。
閉じこもりがちな自分のこだわりっていうものが、ある意味運よく通常真似できないレベルまでそのままにして突っ走れるということはあるので、強くて残っちゃうのかもしれない。

高校生とかある一定の年齢までは、私たちは絶対に彼氏なんか作らない!と、女友達だけであつい意思を固めてそうな方である。
そういうときは本当にそうだったりするので、そのまま行っちゃってどういう大人になるのかと周りを悩ませそうな。
ただ、そういう子も結局こうやってどこかで縁を見つけていたりするものなのだ。

「どうしても吹っ切れない」と、すっきりできない気持ちを吐露し出した。
何だかやけ食いしたり地団太を踏んだりしそうな気配である。
こういう女子の性格を、自分みたいな面倒くさがりなタイプが一緒にいても平気だというのはよくびっくりされる。
なるほどただ聞いていればいいのかと言われたりするが、まぁそれはそうでも、自分は聞き流してあげるのが上手ということでは実はないように思う。
共感したりは別にしなくて、相手の気持ちに同じようにどっぷり漬かってあげるのはやっぱり嫌なのだが、結構聞いていて興味深いことを言っているように感じるから聞いているのだ。
だから、その意味で聞いているだけということになる。
何も触らず聞き捨てるというのではなく、興味深く聞いて、それだけということ。
自分のそのやり方で、彼女の方も起こしそうなヒステリーを収められる方法について、納得のいくやり方のうち割によいものを思いつけることが多いそうだ。

今回は彼女は洗って乾かしたての髪に向かってはさみを取り出し始めた。
「どうするの」とびっくりしたが、いらいらの残る気分を髪をカットすることで一掃したいんだそうだ。

まぁ、そのくらいのことで直って後に何もないんだったら、本当に良いんじゃないかというのが彼女である。

「短く切っちゃうの」と問いかけたが、彼女は答えない。
自分はそれはちょっと残念だなと思うのだが、通じるかどうかは分からない。
彼女の髪は今、重たいぱっつん前髪と、ワンレン気味だけど前下がりに見えるロングヘアで出来ている。
髪の長さは胸辺りぐらいだ。
男性ウケはこういうのはあまりしないはずだと思うんだけど、実は自分は好きなんである。

ざくっと結構雑に切り始めたんじゃないのかと思ったが、結果的にどうも器用に整えられているらしい。
出来がよさそうだ。
こういうのが周りにとっては何らかの女子力にも見えるとされるところかもしれない。
自分の受け取り方としては、いいなとうらやましくなる感じだろうか。
上手く生きられるところが。

完成したのを見ると、彼女は前髪も下ろしている髪も、右から左へ段々下がっていくように斜めにカットしてしまっていた。
長い髪は体の左側だけ前の長さを保っている。
そこはくるんと彼女の左腕をくるむようだ。
前髪も左下の長さは元のところのままだ。

「結構可愛いね」と言うと、彼女は満足そうに微笑んでいた。
まだ目の内は揉めた女子とのイライラが隠せないようだが、これを機会にだんだん落ち着いてくるだろうなということは分かる。

「これでその子を驚かすの」と含み笑いをしている。

「もう友達とケンカしませんように」

彼女は願いを掛けるための呪文を唱え出した。
自分はこういうのが予想の斜め上で、いつまで経っても彼女のこのような言葉を聞くための時間を想定することが出来ない。
今も自分が次に話すことを考え出してたところで、意表を突かれてしまったのだが、例えば料理するときに「美味しくなりますように」と願いを掛けているところを見ると割に好ましく見え、実際に美味しく思えたりすることから、結構いいのかなと思っている。

「もうそろそろ寝よ」
「うん」

彼女の焚いているアロマキャンドルと、部屋の白熱電球の暖色系の光が合わさってやさしく燃えているようだ。

「ばいばぁい」

・ペンネーム
桃缶

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