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【断髪小説】断髪、なかったことに。(5)橘 澪の断髪

放課後の教室。
僕は帰宅しようとしたところ、澪に止められた。
……と、思ったら、気づけば結城(ゆうき)さん、流那(るな)……九条(くじょう)会長までいるじゃないか!?

腰まである黒髪ロングヘアーの結城さん。
サラサラショートカットでスポーツ女子の澪。
金髪ロングヘアーギャルの流那。
三つ編みメガネ女子の九条会長。

……ポニーテールとツインテールがいたらもう完璧だ!
なんて言っている場合じゃない!

「悠夜(ゆうや)ぁ〜!
夏祭り、九条会長も行きたいっていうもんだから、誘っておいたよぉ〜」
「え!?九条会長も来るんですか?」
「来たら悪いのか?」
キリッとした鋭い目つきで睨みつけられた。
「いえ……会長も是非……」
「あぁ、お言葉に甘えて行かせてもらうよ」
「もちろん!」
と澪。

「悠夜君やぁ〜、気づけばハーレムじゃないですかぁ〜?
イッヒッヒ〜!君も隅に置けないねぇ〜!」
「いや、お前が連れてきてるんだろう」
「嬉しいくせにぃ〜!」
とっさの澪の言動に少し顔が熱くなった。

「ところで悠夜はさぁ〜どんな子がタイプなの?」
「え、僕のタイプ? えっと……急に言われても……いや、その……」
つい言い淀んでしまった。
きっと僕の視線は大胆に泳いでいるのだろう。
そこを見逃さずに澪がニヤニヤしながら俺を見つめてきた。
流那は興味津々に顔を近づけてくる。
「やっぱ金髪ギャル系っしょ!」
結城さんがちょっと照れながら控えめに言った。
「髪が黒くて長い子は好きかな?」
そして九条会長が眼鏡越しの鋭い視線を浴びせながら詰めてくる。
「そこは三つ編みメガネっ子一択だろが!どうなんだお前は!?」

心臓がうるさいくらいに脈を打つ。
これ、どう答えたって絶対誰かに突っ込まれるやつじゃないか……!
澪のやつ、俺にどうしろと!?
澪に助けての視線を送ると……。
「まぁ悠夜は髪の長い女性が好きっていうのは聞いたことがあったっけかな〜?」
と口を尖らせながら澪は言った。

ナイスだ澪!これなら全員が当てはまる!
まんざらでもなさそうな表情を浮かべながら3人は長い髪を触る。

「でも……やっぱり黒髪だよね?」
と思ったよりグイグイとくる結城さん。
「いやいや、金髪だよね?男子ってセクシー系好きだよね?ね?」
流那もいつもにはなく食い下がろうとしない。
「それで言うなら、私だって三つ編みを解くと、思ったより長くて美髪なのだぞ」
九条会長が片方の三つ編みを解き、手ぐして髪を梳かす。
「確かに!」
と一同——。

思ってたより本当に美髪だったことにびっくりした。
そして、九条会長が美髪と知ったとたんに僕の心臓はより一層早く脈打っている。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……。

僕がドキドキして何も言えないままにいると澪が——

「じゃ〜さ、夏祭りで悠夜に一番可愛いって言わせた人の勝ち!
って言うのはどう??」

「ほほぉ〜〜〜。いいなぁのった!」
あんたこの状況を楽しんでるなぁ……九条会長。
「ふふふ〜!それなら負けないよ〜!うちのセクシー浴衣でほんろうしてやる!」
セクシー浴衣か!そりゃ〜気になるな、流那よ。
「セクシー浴衣なんてもってのほかです。浴衣はやっぱり清楚で、落ち着いた和の美しさが大切なんですよ!負けませんっ!」
結城さんが頬を赤らめつつ、譲らない視線を流那に向けた。
いやいやいや、みんな落ち着いて〜!!!
って、結城さんも対抗してくれてるぅ〜!
う〜ん、可愛い!結城さんの浴衣姿見てみてぇ〜!
「ふふ〜ん。まぁみんな頑張りなさいな〜。悠夜は案外、単純だから浴衣でころっといっちゃうかもよぉ〜?」
澪が不敵な笑みで、みんなを煽るように言い放った。

「って、澪!
部外者のように振る舞ってるけど、澪も参加するだろう!」
「へっへ〜。私は楽勝よぉ〜!悠夜が好きそうな事はだいたい把握しているしねぇ〜!」
そういうと澪は自分の後ろ髪を下から上にゆっくりとなぞった。
澪のやつ……まさか!?

一体僕は誰に味方すればいいんだよぉ〜!?
推しの結城さんに行くべきか、空気読んで九条会長にするべきか?
セクシー浴衣につられて流那に?それとも誰も傷つかない澪に?

当日が楽しみなような、ちょっと怖いような?
なんとも言えない気持ちで夏祭りまで過ごすこととなった——

夏祭り前最後の週末の土曜日。
約束通り、澪とデパートで僕の浴衣選びデートの日。

僕らの家は向かい合わせにあるため、約束の時間の朝9時に家を出る。
それが待ち合わせだった。

いつも時間きっちりに澪は待ち合わせの時間にくるのだが——

5分前には家の前で待っているであろう澪の気配があった。

「あ、悠夜ぁ〜!」
僕を見つけるといつものニヤニヤした顔でこちらに近づいてきた。
いつもはあまりメイクもしていない澪が、珍しくバッチリメイクで服もキマッている。
服装も白のキャミソールにデニム姿でどことなく大人びている印象をうけた。

「おう、澪。
またせたか?」
「ううん、いま来たところぉ〜!ニヒヒィ!」
「今日は、浴衣選び頼むな!」
「えっへ〜ん!まかせなされ!天音(あまね)が好きそうな浴衣を選べばいいんでしょ〜?」
「……まぁ。」
「今日はやけに素直だねぇ〜。ってみんなのいる前じゃ言えないかぁ〜」
「そりゃ〜……な」

——そう。

——今日、僕は決めていることがある。

それは、澪とのデート中に——

澪の髪を断髪することだ!!!

僕らはデパートへ向かい、浴衣売り場へ入った。

浴衣売り場で澪は、僕の身体に浴衣を当てて、真剣に色合いを見比べている。

「ん〜? 悠夜、意外と肩幅あるんだねぇ〜」
澪が肩のラインをなぞるように触れる。
突然の感触に僕は少し身体を固くした。

「ちょっ、おい、澪……」
「おやおや〜?もしかしてドキッとしたぁ? ニヒヒッ」
「べ、別にそんなんじゃ……」

浴衣を見比べながら澪がふと前かがみになると、そのサラサラなショートヘアがふわりと揺れ、僕の鼻先をくすぐるように触れた。

「あ、ごめん悠夜〜。髪邪魔だった?」
そう言いながら澪が顔を上げると、短い髪から甘いシャンプーの香りが微かに漂ってきて、僕の胸はドキンと高鳴った。

……こんなに近くで澪の髪に触れたのは初めてで、一瞬、視線が奪われてしまった。

「……悠夜?どしたぁ〜?」
澪は気付かずに不思議そうな顔で僕を見つめていたが、僕は慌てて目を逸らした。

「べ、別になんでもないって……」
この調子で本当に髪を切れるのか?と僕は内心焦りながらも、澪の髪に触れた感触を忘れられずにいた。

澪がニヤニヤ笑う横顔を見ているうちに、なんだか心臓が妙にうるさくなった。
いつもふざけてばかりの澪が、今だけはちょっと違って見えたからかもしれない。

こうして僕の浴衣も購入して帰路につく途中——。

「ねぇ、悠夜。
このあと時間ある?」
「うん、あるよ。今日は澪との予定しか入れてないから」
「……そう——。
ならさ、久しぶりに家来る?」
「え!?」
「ほら、夏祭り近いじゃん。
だからさ、髪を少し短くしたいなぁって思って……その……久しぶりに切ってくれる?」

僕らは家が近いこともあり昔から仲が良かった。
小さい頃はよくごっこ遊びとして澪の髪の毛を切っていたことがあった。
その頃は澪を女性としてではなくて、ただの友達としてカット遊びをしていたから、当時は今のようなヘアカットで興奮する感覚はなかった。

そんな事はすっかり忘れていた。
だけど今思い返せば、僕が女性の髪の毛を切る事が好きになったのはそのことに起因しているのかもしれない。

「澪が、良いっていうなら、切ってあげる」
「ふふふ。切ってあげるじゃなくて、切りたい!……でしょ」
「まぁ……うん」
「じゃ〜家に行こっか。やってほしいスタイルがあるんだよねぇ〜。イヒヒ〜」

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