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イメチェンに成功したクラスメイトの変化が寂しい僕:小説 #イメチェン小説

僕の席から右斜め前に座る井上は中学校以来の付き合いだ。
かといっても当時からしゃべったことはあまりなく、同じ高校に進学して周りが知らない人ばかりのなかで唯一の知り合いになったにも関わらずその関係は変わっていなかった。
井上はクソが付くほど真面目なタイプで、中学生のころから鋭い目つきをメガネで隠して真っ黒な長い髪を肩まで伸ばしていた。
細身でもあるので高校からの友人の中には清楚でミステリアスと言って気に入っている奴もいたが、僕からすればただオシャレを知らない野暮ったい女子といった印象しかない。
確かに何を考えているかはわからないのでミステリアスとは言えるけど。

そんな井上が週明けの学校でショートカットにしてきたのには心底驚いた。
メガネは変わらないが、髪の色も少し明るくなっていてただの真面目女が理知的な女の子といった印象に変わっている。
突然のイメチェンにはクラス中が驚き、休み時間には普段井上としゃべっているところを見かけない女子までが寄ってきてなにやら話している。
夏休み明けでもなければ特にイベントがあるわけでもないこのタイミングでのイメチェンの理由に皆興味深々で根堀り葉堀り聞きだそう必死だ。
僕も気にならないといえば嘘になるのでついつい聞き耳を立ててしまった。
井上は理由はないけど高校生だしちょっと冒険してみたと言っていたが、笑いながら話す表情は柔らかくて悔しいがちょっと可愛いと思ってしまった。

イメチェンに成功した井上は何か自信をつけることになったのか友達も増えたようで、今まで全然目立たずに休み時間に1人でいることも珍しくはなかったのが今では常に誰かとおしゃべりをして笑っている。
男子の中でも一気に人気の女の子にランクアップして中には本気で好きになりかけている奴まで現れた。

そんな井上のイメチェンを素直に喜べていない人間がいた。僕である。
最初に説明した通り井上とは何もないどころかただの顔見知りレベルで友達ですらないのだが、なんだかモヤモヤしてしまうのである。
僕もショートにした井上は可愛いと思ってしまったし、高校生なのだから少しくらいオシャレをするべきなのだが「それではお前じゃないだろ」と思うのだ。
つまりは僕は昔の井上が好きだったのだろうか?自分が知らない彼女になるのが怖いのだろうか。
そんなことを考えてしまってからは一層井上のことを見ていられなくなってしまって苦しくなってきた。

井上のイメチェンは成功だろう。
髪を切ったことで彼女の世界は明るくなったので、そう遠くないうちに彼氏もできるはずだ。
そんなことになったら僕は耐えられないと思う。
でも今さら元に戻ってくれなんて言えるわけがないし、言う資格も持っていない。
告白する勇気も持てない僕は今日も心を痛めながら井上の後姿を席から眺めている。

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